なぜ歯石を取るべきなのか?歯科医が教える歯石除去の本当の意味
- 2025年10月30日
- むし歯・歯周病

【目次】
4. 「縁上歯石」と「縁下歯石」―見える歯石と見えないリスク
1. 歯石を取っていれば安心?その誤解が危ない理由
「歯石を取ってもらえば大丈夫」「3ヶ月に一度、歯医者でクリーニングしているから安心」――そんな声を患者さんからよく聞きます。しかし、実はそれだけでは歯周病は止まりません。
歯石除去は確かに大切な処置ですが、それ自体が“治療”ではなく、“環境整備”にすぎないということをご存じでしょうか。
「歯医者で歯石を取ってもらっているから、歯周病にならない」と思い込んでいると、治療の本質を見失ってしまうかもしれません。本コラムでは、歯石除去の本当の意味と、歯周病を止めるために本当に必要なことを、歯科医の視点からお伝えします。
2. 歯石除去の本当の目的は「環境を整えること」
まず理解していただきたいのは、歯石そのものが細菌の塊ではなく、細菌が棲みつく“土台”になる存在だということです。
プラーク(歯垢)は柔らかく、毎日の歯磨きで落とすことができますが、時間が経つと唾液中のミネラルと結合し、石のように硬くなって歯石になります。一度歯石になると、歯ブラシでは取れません。
この歯石の表面はザラザラしており、プラークが再び付きやすく、細菌が定着しやすい環境となります。その結果、歯ぐきに炎症が起こり、歯周病が進行していくのです。
つまり、歯石を除去する目的は、見た目をきれいにすることではなく、細菌が棲みつきにくい状態=セルフケアの効果が上がる環境を整えることにあります。
これが、歯石除去の本当の意味です。
3. 歯石を取るだけでは歯周病は治らない
ここで重要なのは、歯石を取っただけでは歯周病は止まらないという点です。
歯周病の直接的な原因は「プラーク」であり、歯石ではありません。歯石はあくまでプラークが付きやすくなる環境を作る存在です。
したがって、いくら歯石を除去しても、患者さん自身の毎日のプラークコントロール(歯磨きなどのセルフケア)が適切でなければ、またすぐに炎症が再発します。
この事実は、多くの臨床研究により明確に証明されています。歯周病を止めるには、「歯石除去+適切なプラークコントロール」がセットで必要なのです。
4. 「縁上歯石」と「縁下歯石」――見える歯石と見えないリスク
歯石には、歯ぐきの上にある「縁上歯石」と、歯ぐきの中にある「縁下歯石」の2種類があります。
・縁上歯石:見た目で確認でき、比較的取りやすい
・縁下歯石:歯ぐきの中に隠れており、レントゲンやプローブ検査でしか把握できない
問題なのは、縁下歯石が強い炎症や歯周病を引き起こす温床になるということです。
外から見て歯石がないように見えても、歯周ポケットの中に隠れている縁下歯石によって、じわじわと歯を支える骨が溶けていきます。
したがって、見た目だけで「きれいになった」と安心するのではなく、見えない部分まできちんと評価・除去されているかが重要です。
5. セルフケアの効果を最大限に引き出す「環境づくり」
歯石除去は、「細菌のすみか」を取り除き、「プラークが付きにくい状態を作る」という点で、毎日のセルフケアの効果を何倍にも高めてくれる処置です。
歯の根元に歯石や段差があれば、どんなに丁寧に磨いてもプラークは残りやすくなります。
逆に、歯石が除去されて滑らかになれば、歯ブラシやフロス、歯間ブラシがしっかり届き、患者さん自身のケアが結果につながりやすくなるのです。
6. 多くの歯科医院が「本物の指導」をしていない現実
残念ながら、多くの歯科医院では十分なプラークコントロールの指導が行われていません。
その原因は2つあります。
① 保険制度の制約
保険診療では、口腔衛生指導に時間をかけても医院が得られる報酬は非常に少ないため、現実的に十分な時間を割けない医院が多く存在します。
② 診療体制の問題
日本の歯科医院は、利益の出やすい矯正・インプラントなどの自費治療には熱心でも、歯周病治療については学んでいない、または診療体制に組み込まれていないことがほとんどです。
結果として、歯石を取るだけで“治療した気”になってしまう流れが生まれてしまっています。
「定期メインテナンスに通っているのに、むし歯や歯周病が進んでしまった」。当院に転院してこられた患者さんから、前医での体験談としてそのようなお話を語っていただいくことがあります。これは、歯科医院側が歯周病や予防歯科について十分な知識や診療体制を備えていないことが原因です。
7. 歯周病治療の正しい順序:むし歯治療より先にすべきこと
日本の多くの歯科医院では、「まずむし歯治療を終わらせて、落ち着いたら定期検診に通ってください」という流れが一般的です。
しかし、歯周病治療の世界的な原則は全く逆です。
・応急処置(痛みや腫れの対処)
・→プラークコントロールと歯周基本治療(歯石除去・歯周ポケットの管理)
・→その後にむし歯や補綴治療
・→安定してからメインテナンスへ
この順序を守らなければ、歯周病は止まりませんし、治療したむし歯や被せ物も長持ちしません。
むし歯治療が終わってから定期クリーニングを勧めてくる医院には注意しましょう。
「むし歯治療の前に、歯ぐきの治療をしましょう」と説明してくれる医院こそ、本当に歯周病を理解している証です。
8. 「歯石を取る」のではなく「歯を守るために通う」
歯石を取るためだけに歯医者へ通うのではなく、「自分のケアができているか」をチェックし、「磨きやすい環境」を整えるために通うことが、本当の予防につながります。
・適切な道具が使えているか?
・歯間部のプラーク(歯垢)は取れているか?
・染め出しでチェックして指導を受けているか?
・リスクに応じた間隔で通院できているか?
こうしたチェックと支援を継続的に受けられる医院に通うことで、歯周病の進行は止まり、歯を守る確率が圧倒的に高くなるのです。
9. まとめ:歯石除去はゴールではなくスタートライン
歯石除去は、歯ぐきを健康に導くための「準備作業」に過ぎません。
その後に、適切なプラークコントロールが継続できて初めて、歯周病の進行を止めることができます。
もし今、歯ぐきの出血が気になっていたり、歯石取りだけで済ませていたりする方は、ぜひ一度、自分に合ったケアを評価してくれる歯科医院を探してみてください。
“歯石を取ってもらうだけ”の通院から、“むし歯・歯周病を制するため”の通院へ。
その意識の転換が、あなたの将来の歯を大きく左右します。
監修:もりわき歯科 院長 森脇 一都(歯科医師)
兵庫県芦屋市にて「予防で歯を守る」診療を実践。
スウェーデン式の歯周病治療と患者教育に基づき、プラークコントロール支援・個別リスク評価・長期メインテナンスを行っている。歯石除去を“きれいにするため”ではなく、“歯を守るため”と位置づけ、患者の理解を深める情報発信を行っている。
参考文献:
ACTA ODONTOL SCAND, 2004:62:282-288. Effect of different frequencies of preventive maintenance treatment on dental caries: five year observations in general dentistry patients. Rosen B et al., 2004.
