フッ素は本当に安全?子どもへの影響と正しい使い方を歯科医が解説
- 2026年2月15日
- その他

目次
「子どもにフッ素*を使っても大丈夫ですか?」
診療室でよくいただくご質問です。
インターネットやSNSでは、フッ素についてさまざまな意見が発信されています。不安になるお気持ちは、とても自然なことです。
この記事では、歯科医師の立場から、感情ではなく科学的根拠に基づいて、フッ素の安全性と正しい使い方を整理します。そして、もしフッ素を使いたくない場合の選択肢についてもお伝えします。
*正確には「フッ化ナトリウム」などの無機フッ化物を指します。このコラムは一般の方向けのため、フッ素という言い方で説明します。
フッ素は危険?なぜ不安の声があるのか
「フッ素=毒」というイメージを持つ方がいます。これは、工業用フッ化物や大量摂取による中毒の話が混同されていることが多いからです。
また、海外の水道水フロリデーション(水道水へのフッ化物添加)に関する議論が、そのまま歯磨き粉のフッ素に当てはめられて語られることもあります。
しかし、歯磨き粉に含まれるフッ素は、濃度も使用方法も厳密に管理されています。不安を否定するのではなく、「何がどの程度リスクなのか」を冷静に整理することが大切です。
PFASと歯磨き粉のフッ素は関係ある?
PFASは「有機フッ素化合物(炭素とフッ素が結合した化学物質)」で、撥水加工や消火剤などに使われる人工化学物質の総称です。環境中に残留しやすいことが問題になっています。
一方、歯磨き粉やフッ素塗布に使われるフッ化物は、フッ化ナトリウムなどの「無機フッ化物」で、歯の再石灰化を促進するために使用されます。
両者に共通しているのは「フッ素という元素を含む」という点だけで、化学構造・用途・体内での挙動・安全性評価は完全に別物です。
(漂白剤のハイター(次亜塩素酸)と食卓の塩(塩化ナトリウム)は同じ塩素という元素を含みますが、まったく別物であることはみなさんもご存知かと思います。)
「フッ素」という言葉が共通しているため混同されがちですが、
PFASの環境問題と、歯科で使うフッ化物の安全性は直接の関係はありません。
フッ素の働きとは?むし歯予防の科学的根拠

フッ素には、主に次の3つの働きがあります。
・歯の再石灰化を促進する
・酸による脱灰を抑制する
・むし歯菌の酸産生を抑える
さらに、エナメル質を酸に強い構造へと変化させる作用もあります。
数多くの研究や国際的なガイドラインにおいて、フッ素配合歯磨剤の使用はむし歯発生率を有意に低下させることが確認されています。現在、世界的に最も確立されたむし歯予防法の一つといえます。
子どもへの影響は?安全性データを整理する
通常の使用量であれば、フッ素配合歯磨剤の安全性は多数の研究で確認されています。
歯磨き粉は「吐き出す」ことを前提に設計されています。問題となる急性中毒は、大量に誤飲した場合に限られます。通常の歯磨き習慣では起こりません。
一部で神経発達への影響を示唆する研究もありますが、多くは水道水フロリデーション地域での高濃度暴露を対象にしたものです。日本で一般的に使用されている歯磨剤の使用状況とは条件が大きく異なります。
重要なのは、「適量を守ること」です。
フッ素症とは何か?過剰摂取のリスク
フッ素症は、歯の形成期に慢性的に過剰摂取があった場合に起こります。白い斑点が出る軽度のものから、褐色変色まで程度はさまざまです。
しかし、日本では重度のフッ素症は非常にまれです。
問題は「フッ素を使うこと」ではなく、「使いすぎること」です。量を守れば、リスクは大きく低減できます。
年齢別|フッ素の正しい使い方

現在推奨されている目安は以下の通りです。
・0〜2歳:1000ppm、米粒程度
・3〜5歳:1000ppm、グリーンピース程度
・6歳以上:1400〜1500ppm、1〜2cm
うがいは少量の水で1回にとどめます。
仕上げ磨きで量を管理することが、安全性を保つ最大のポイントです。
フッ素塗布は必要?歯科医院で行う意味
歯科医院で行うフッ素塗布は、市販品より高濃度ですが、専門管理下で安全に使用します。
むし歯ハイリスクの子どもには有効性が高く、家庭でのケアと併用することで予防効果は高まります。ただし、「塗ればむし歯にならない」という魔法の方法ではありません。
フッ素入り歯磨き粉の適正使用、仕上げ磨き、定期管理があってこそ、意味を持ちます。
フッ素を使わないという選択肢はあるのか
科学的に見ると、フッ素を完全に否定する根拠は乏しいのが現状です。しかし、どうしても使用したくないという保護者の方もいらっしゃいます。
その場合、代替として推奨できるのがハイドロキシアパタイト(HAP)配合の歯磨剤です。
ハイドロキシアパタイトは、歯の主成分と同じ物質で、天然に存在し、母乳などにも含まれる生体親和性の高い成分です。
代表的な製品には、アパガードやリナメルなどがあります。
HAPはフッ化物よりむし歯予防効果に優れているわけではありませんが、近年の研究では同等の効果をもつ可能性が示されています。つまり、一定の科学的根拠があります。
ただし、フッ素を使わない場合は、より徹底したプラークコントロールや定期管理が重要になります。
大切なのは、「感情で拒否する」ことではなく、「理解した上で選択する」ことです。
もりわき歯科が考えるフッ素との上手な付き合い方
私たちは、フッ素を万能薬とは考えていません。
予防の一つの道具として位置づけ、リスク評価に基づいて個別に提案します。
不安があれば、無理に押しつけることはありません。
メリットとデメリットをご理解いただいた上で、科学的根拠と保護者の価値観、その両方を尊重する。
それが当院の姿勢です。
まとめ|不安よりも正しい知識を

フッ素は、適量使用であれば安全性が高く、むし歯予防に有効です。
問題は誤情報と過剰摂取です。
そして、もし使用しない選択をするなら、ハイドロキシアパタイトという科学的根拠のある代替手段もあります。
子どもの将来の歯の健康を守るために、怖いから避けるのではなく、理解して選ぶ。
それが本当の意味での予防だと、私たちは考えています。
