保険で歯のメインテナンスをできる頻度とは?
- 2025年9月3日
- 予防・メインテナンス,むし歯・歯周病
目次|保険で歯のメインテナンスをできる頻度とは?
2-1. セルフケアのチェックとサポート
2-2. プロフェッショナルケア
4. メインテナンスの適切な頻度は?(リスクベースの考え方)
1. はじめに:歯のメインテナンスはどのくらい受けられる?
「歯のクリーニング(=メインテナンス)は、どのくらいの頻度で受けたらいいのですか?」
これは、当院でも非常に多いご質問です。
歯のメインテナンスは、見た目をきれいにする目的にとどまりません。むし歯や歯周病を予防し、将来にわたって自分の歯を守るための基盤です。実際、定期的なメインテナンスを継続している方は、そうでない方と比べて生涯に残せる歯の本数が多いことが報告されています(Axelsson ら, 2004)。
ただし、「何か月ごとが正解か」は一律ではありません。一般に「3か月」と耳にすることが多いですが、1か月ごとが必要な方もいれば、6か月〜1年で十分な方もいるのが実際です。
(なお学術用語としての「メインテナンス」は歯周病治療後の維持期を指しますが、本コラムでは便宜上、病状が安定した後のSPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)と呼ばれる治療や、進行予防のための歯周病重症化予防治療(P重防)も含めて「メインテナンス」と表現します。)
本コラムでは、当院で行っている保険のメインテナンス内容、制度上のルール、そして個々のリスクに応じた最適な頻度の考え方をわかりやすく解説します。
2. 当院で行う保険のメインテナンス内容
保険のメインテナンスは、歯周病の検査 → 治療 → 評価 → 病状安定なら維持管理という流れの中に位置づけられます。当院では、メインテナンスを「セルフケアのチェック&サポート」と「プロフェッショナルケア」の二本柱で実施しています。
2-1. セルフケアのチェックとサポート
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歯周病の精密検査(染め出しを含む)
前回結果と比較し、出血の有無、歯周ポケットの深さの推移、プラーク(バイオフィルムとも言われる。細菌と細菌が生み出したネバネバの塊。)のコントロール状況を評価します。染め出しを行わないメインテナンスは、ただのお掃除です。生活習慣病である歯周病を予防することはできません。当院では必ず染め出しを行い、付着傾向を可視化・記録します。
- リスク部位の見極めとアドバイス
出血部位や深いポケットは要注意ポイントです。お手入れ方法の技術的なサポートが必要か、生活習慣の改善が必要かを歯科衛生士が判定し、重点部位の磨き方・ケア手順を具体的にご提案します。
- ブラッシング/フロス/歯間ブラシの個別指導
歯列や隙間の大きさに応じて、清掃用具の種類・サイズを個別に最適化。歯科衛生士によるデモ→患者さんが練習→フィードバックまで行い、できるまで伴走します。
2-2. プロフェッショナルケア
- バイオフィルムの除去(リスク部位重点)
歯面や歯周ポケット内に形成されるヌメリ状のバイオフィルムは薬剤が効きにくく、物理的に破壊することが必要です。超音波スケーラーという専用の器具を用いて、振動・キャビテーション・微細水流によって効果的に分解・剥離します。
- 歯石の除去
歯石自体は病原性を持ちませんが、細菌の足場となり歯周病リスクを高めます。超音波スケーラーや手用スケーラー(キュレット)と呼ばれる専用の器具を適宜使い分けて、歯の表面の見えている歯石と、歯茎の下に隠れている歯根に付いた歯石を除去します。
- 機械的歯面清掃(PMTC)
ステインなどで歯の表面が粗くなるとプラークが再付着しやすくなります。回転ブラシ+研磨剤で歯をツルツルにし、再付着を抑えます(※審美目的だけで保険算定はできません)。
- フッ化物歯面塗布
むし歯予防に最も効果的なのがフッ化物です。フッ化物は再石灰化・耐酸性向上で歯を強くし、細菌の働きを抑えます。バイオフィルムを除去した後に行うことで、予防効果の底上げが期待できます。高濃度のため、医院での塗布は数か月に1回で十分です。
当院では「原因除去(セルフケア支援)+プロの処置」の両輪で、再発を抑える予防型メインテナンスを実践しています。
3. 保険でメインテナンスを受けられる条件と保険制度の変化
3-1. 保険適用の基本ルール:「治療」中心だった背景
かつてはむし歯・歯周病が非常に多く、入れ歯・ブリッジ等の治療ニーズが高い時代でした。医療財政やエビデンスの状況から、保険は主として発症後の「治療」に適用されてきました。
3-2. 予防処置への保険適用拡大の流れ
その後、予防の有効性に関する科学的根拠(フッ化物応用、定期メインテナンスの有用性)が蓄積。高齢化や医療費抑制の観点から、歯周病重症化予防治療(P重防)など、予防・管理に対する保険適用が拡大してきました。
3-3. 保険で受けられる対象者と注意点
歯周病の診断があることが基本です。歯周組織検査で出血・ポケット・歯の揺れなどの所見が確認され、歯科医師が歯周病と診断したうえで管理します。転院時には新しい医院での検査と診断が必要です。なお、歯周病がない方や審美のみを目的とする処置は保険対象外で、自費のメインテナンス(クリーニング)となります。
4. メインテナンスの適切な頻度は?(リスクベースの考え方)
結論:一人ひとりのリスクに応じて決まります。
「○か月が正解」という固定解はありません。一般に「3か月」と言われがちですが、科学的な根拠があるわけではなく、運用上の目安にすぎません。一律に◯ヶ月としているクリニックでは、個人ごとのリスクが考慮されておらず、医療、そして経済的にも妥当な診療体制とは言えません。
口腔管理体制強化加算(口管強)と頻度
国は「治療から予防へ」の流れを推進しており、口腔管理体制強化加算(口管強)の届出を行った歯科医院では、1か月ごとのメインテナンス受診が制度上可能です。
- 口管強 届出済み医院:1か月ごとに受診可能
- 口管強 届出なし医院:3か月に1回が限度。
重度の歯周病や厳密な管理が必要な方にも、短い間隔での継続管理が可能です。
口菅強届出済み医院は、全国の歯科医院の17%程度と多くありませんので、医院のホームページ等で確認してみましょう。(当院は「口管強」届出済みです。)
個々のリスクに応じた最適間隔
1か月〜6か月、場合によっては1年という幅で設定します。むし歯リスクは過去の罹患歴やプラークコントロールで、歯周病リスクは日本歯周病学会の評価枠組み(進行度=ステージ、進行速度=グレード)などを参考に評価し、保険制度の範囲と臨床判断、患者さんのライフスタイルから総合的に判断し、患者さんとの話し合いで決まります。
5. 頻度を決めるポイント:あなたはどのタイプ?
【歯周病が進行している/進行リスクが高い方】
ステージ(進行度)・グレード(進行速度)評価で重度/高リスクの場合、1か月など短い間隔を推奨。
【むし歯リスクが高い方】
現時点で多数のむし歯がある、治療歴が多い、プラークコントロール不良などは1〜2か月で集中的に。コントロール改善後は3か月以上へ段階的延長。フッ化物の使用は必須。
【全身疾患や服薬の影響がある方】
糖尿病、シェーグレン症候群、唾液減少(薬剤性含む)等では1〜2か月推奨。
【喫煙者】
タバコは最大級の歯周病リスク。禁煙が理想ですが、難しい場合は1〜2か月で厳密な管理を。
【セルフケア良好・低リスクの方】
まず3か月を標準に、経過良好なら4→5→6か月→最長1年まで段階的に延長可。
ポイントは「短く始めて、良くなったら延ばす」。無理のない継続が最も再発を防ぎます。
6. 費用の目安と保険で受けられる範囲
保険点数はおおむね2年ごとに改定されます。以下は掲載時点(2025年9月)の概算です。
- 3か月間隔:自己負担(3割)で約4,500円
- それより短い間隔:検査・フッ化物ありで約4,500円、なしで約2,500円
保険で可能な内容:歯周病検査、口腔衛生指導、歯石除去/ステイン除去、フッ化物歯面塗布 等。
保険でできないこと:審美のみを目的とする施術、歯肉・リップマッサージ等は自費。
※歯周病がない方のメインテナンス(予防のみ目的)は自費となります。自費メニューや価格は医院により異なります。
7. よくある質問(Q&A)
Q1. 保険で毎月メインテナンスを受けられる?
A. 口管強届出済みの医院なら可能です。
届出のない医院では3か月に1回が限度です。(当院は届出済みです。)
Q2. むし歯がなくても保険でメインテナンスできる?
A. 歯周病の検査・診断があれば保険でメインテナンスを受けられます。
メインテナンスは保険制度上、主に歯周病を対象に行うことができます。「歯石を取るだけ」「見た目をきれいにするだけ」といった予防・審美のみの目的は保険外で、自費のメインテナンス(クリーニング)になります。当院では、むし歯がなくても歯周病リスクの評価→必要な処置を行い、個別の間隔をご提案しています。
Q3. 痛みがなくても通った方がいいの?
A. むしろ痛みが出る前が大切です。
むし歯で穴が空いたり、歯周病で骨が減ってしまうと、完全な回復は不可能です。だからこそ、定期メインテナンスで「発症させない・再発させない」ことが最善策です。
8. まとめ:自分に合った頻度で続けることが大切
- 一律の「3か月」ではなく、リスクに応じて1〜6か月(最長1年)まで個別設計
- 保険の枠内でも、適切な検査・指導・処置で十分に予防効果が期待できます
- 口管強届出済み医院であれば、重度の方や厳密管理が必要な方にも短い間隔で対応可能です
「今の自分はどのくらいの間隔が最適?」と感じたときが、始め時・見直し時です。ぜひ一度ご相談ください。短く始めて、良くなったら延ばす——無理なく続けられる設計で、将来の歯の健康を守りましょう。
監修:もりわき歯科 院長 森脇 一都
歯科医師として一般歯科から予防歯科、矯正相談まで幅広く対応。地域医療に根ざし、患者さん一人ひとりに寄り添った診療を心がけている。本記事は、ご自身やご家族のお口の健康を守りたいと願うすべての人に、正しい知識を届けるために監修しました。
9. 参考文献
- Axelsson P, Nyström B, Lindhe J. The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries and periodontal disease in adults. Results after 30 years of maintenance. J Clin Periodontol. 2004;31(9):749–57.