子どもの歯並びは“毎日のクセ”で変わる? 成長を左右する口腔習癖とマイオブレース治療の役割
- 2025年12月3日
- 小児歯科
はじめに ― 子どもの歯並びは“遺伝”だけでは決まらない
「うちの子の歯並び、遺伝だから仕方ない…」
そのように感じている保護者の方は少なくありません。しかし近年の研究と臨床経験からわかってきたのは、歯並びは遺伝よりも“毎日のクセ(口腔習癖)”の影響の方が圧倒的に大きいという事実です。
とくに、現代の子どもには
・口呼吸
・舌の位置異常(低位舌)
・舌突出癖
・口唇閉鎖不全
などが増えており、これらは顎の成長を阻害し、不正咬合を引き起こす主要な原因といわれています。
当院では、こうした「口腔習癖の改善」を軸にした小児矯正治療としてマイオブレース(MRC)を導入しています。これは単に歯を動かす治療ではなく、成長期の子どもの「成長そのもの」を最大限に生かすための治療です。
その重要性を示す象徴的な例として、当院では“姉妹の比較写真”を紹介しています。
同じ遺伝背景をもつ姉妹でありながら、口腔習癖を改善した子としなかった子で、顔貌・歯並び・顎の発育に大きな差が生まれているのがわかります。
口腔習癖を治療した場合と治療しなかった場合の比較 ― 姉妹の写真から分かること

ここで、ある姉妹の写真を紹介しましょう。
お口の癖を治した妹と、治さなかった姉がどのように成長したかをみてください。
幼少期にはほとんど差がなかったものの、成長する過程で
・顎の幅
・鼻の高さやバランス
・下顎の位置
・横顔のライン
などが大きく変わっています。
とくに、口呼吸や舌の位置異常を放置した子は
・口元が前に出る
・上顎が横に広がらない
・顎の成長が弱く、細長い顔になる
といった特徴がみられます。
一方で、早い段階から口腔習癖にアプローチを行い、
・鼻呼吸
・舌の正しい位置
・正しい嚥下
・口唇閉鎖
を獲得した子は、自然で調和のとれた顔貌へ成長しています。
この比較から明らかなように、歯並びの良し悪しは「成長期にどんな習慣を持っていたか」で大きく変わるのです。
なぜ毎日の“クセ”が歯並びを左右するのか?
歯は筋肉に囲まれており、
舌 → 内側から押す力
頬と唇 → 外側から押す力
がバランスを取ることで正しい位置に並びます。
ところが、口呼吸や低位舌があると、
・舌の力が弱くなる
・舌の位置が常に下がる
・上顎の横方向の成長が不足する
・歯列が狭くなる
・デコボコ歯列(叢生)につながる
といった問題が起きます。
また、舌突出癖や間違った飲み込み(舌で押し出す嚥下癖)が続くと、24時間のうちたった数回の力でも、習慣化すれば歯が前に押されてしまうのです。
顎の成長は“力の方向”で決まります。だからこそ、
筋機能の異常=発育の異常につながる
という構図になります。
歯並びを悪くする代表的な口腔習癖
● 口呼吸
鼻が使われなくなることで舌が下に落ち、
→ 上顎が狭くなる
→ 下顎が後ろに下がる
→ 口が閉じられない
という悪循環に。
● 低位舌
舌が上顎に吸い付いていない状態。
→ 上顎が成長しない
→ 歯が並ぶスペースが足りない
→ 顔が細く長くなる
● 舌突出癖
飲み込む度に舌で歯を押し出す。
→ 開咬・出っ歯の原因に。
● 頬杖、爪噛み、指しゃぶり
→ 片側への力が続けば、顎は簡単に歪む
● 間違った嚥下(飲み込み方)
舌を奥ではなく前に押し出す飲み込み方。
→ 出っ歯や開咬を助長。
これらは“成長期にこそ影響が大きい”ため、早期からの対応がもっとも効果的です。
マイオブレースとは? ― 原因にアプローチする新しい小児矯正
マイオブレースは、世界100カ国以上で使用される「筋機能矯正プログラム」です。
歯を直接動かす矯正ではなく、舌・呼吸・姿勢などの機能を正し、自然な成長で歯並びを整えるという考え方に基づきます。
マイオブレースが重視する4つの柱
① 鼻呼吸
② 舌の正しい位置
③ 正しい嚥下
④ 正しい口唇閉鎖
これらが改善すると、筋肉の使い方が変わり、上顎が自然に広がり、歯が並ぶ土台そのものが変わっていくのです。
当院でも、マイオブレースにより
・口呼吸の改善
・寝つきの向上
・姿勢の改善
・歯列の自然な整い
などの変化を実感していただくことが多くあります。
当院におけるマイオブレース治療の流れ
● 1. 初診(姿勢・呼吸・舌の位置・嚥下のチェック)
まずは「歯ではなく、原因を評価する」ことから始まります。
● 2. 顎の成長と歯列の分析
必要に応じてレントゲンや口腔内スキャンで評価します。
● 3. 装置選択(MRCシステム)
成長段階に合わせた複数のタイプから選択します。
● 4. マイオブレース・アクティビティ
医院および家庭で行う筋機能トレーニングです。
● 5. 家庭での習慣改善サポート
お子さんひとりの力だけでは成功しません。親御さんの関わりが治療効果のカギです。
● 6. 定期フォロー
成長を見ながら治療方針を調整します。
どんな症状の子に向いている?
以下のような場合はマイオブレースが特に有効です。
・口呼吸が気になる
・いびきをかく
・歯並びがガタガタ
・下顎が後ろに下がっている
・受け口傾向
・口元が前に出ている
・唇が閉じにくい
・舌の位置が低い
これらは“歯の問題”のように見えて、実際には呼吸や舌の使い方の問題であることが多いのです。
マイオブレース治療中に家庭で気を付けること
マイオブレース治療は“医院だけで完結する治療”ではありません。
日々の習慣を改善することで、治療効果は大きく高まります。
● 姿勢
背もたれにもたれすぎない
→ 顎が自然に引けるように座る
● 鼻呼吸
鼻づまりがある場合はまず耳鼻科的評価を。
● 口が開いていたら声かけ
口唇閉鎖を意識づけるだけでも大きな効果。
● 咀嚼回数を増やす
硬い食べ物は“顎の成長”を促す。
● 睡眠環境
枕の高さ、寝姿勢、鼻づまり対策なども重要。
これらはすべて、顎の成長と歯並びの土台づくりに直結します。
まとめ ― 成長期こそ、習慣が未来をつくる
歯並びは、ただ見た目の問題ではなく、
呼吸・姿勢・睡眠・全身の健康にも影響します。
そして、今回の姉妹の例からもわかるように、
「毎日のクセ」にどれほど早く気づき、改善できるかが、
子どもの将来の顔貌・歯並び・健康を大きく左右します。
マイオブレースは、
・成長期の子どもの潜在能力を引き出す
・原因から改善する
・抜歯を避ける可能性を高める
というメリットがあります。
当院では、保護者の方と一緒に“子どもの成長そのものを育てる治療”として
マイオブレースに取り組んでいます。

