親知らずにむし歯ができたらどうすれば良い?
- 2025年8月11日
- その他
目次|親知らずにむし歯ができたらどうすれば良い?
1. はじめに:親知らずのむし歯、どうしたら良いか迷っていませんか?
2. 親知らずはなぜ虫歯になりやすいのか?
2-1. 清掃性の悪さ:ブラッシングが届きにくい
2-2. 異常な方向に生えている:斜め・横向き・埋伏歯
2-3. 自覚症状が出にくい
2-4. 智歯周囲炎のリスク
3. 治療か抜歯か? 判断の基準と考え方
3-1. 親知らずを残せるケース
3-2. 抜歯が望ましいケース
4. 親知らずの抜歯に伴うリスクと注意点
4-1. 術後の痛みや腫れ
4-2. ドライソケット
4-3. 神経麻痺のリスク
4-4. 上顎洞への影響
4-5. 全身状態との関係
5. よくあるご質問(Q&A)
Q1. 親知らずは全部抜くべきですか?
Q2. 虫歯があっても親知らずを治療して残せますか?
Q3. 抜歯の痛みや腫れが心配です
6. まとめ:親知らずの虫歯は放置せず、早めに相談を
はじめに:親知らずのむし歯、どうしたら良いか迷っていませんか?
「親知らずに虫歯ができていると言われたけど、抜くべきか、それとも治療できるのか分からない」――こうしたお悩みを抱えて歯科を訪れる患者さんはとても多いです。当院でも、親知らずの痛みや腫れを訴えて来院される方、また「口の奥が臭う気がする」「食べ物が詰まりやすくなった」といった違和感から相談に来られる方が多くいらっしゃいます。
親知らずは他の歯とは異なり、「虫歯=抜歯」となるケースが多い歯です。その背景には、親知らず特有の位置や形、生え方、清掃のしづらさなどが関係しており、歯科医師としても慎重に判断する必要があります。また、「親知らずを残したほうが良いのでは?」という声や、「移植に使える歯だから抜かない方がいい」といった話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。確かにケースによっては親知らずを残す価値があることもありますが、すべての親知らずが保存に適しているわけではありません。
本コラムでは、親知らずの虫歯ができやすい理由、抜歯と治療の判断基準、抜歯時のリスクと注意点、そして「抜くか・残すか」の考え方について、歯科医師の立場からわかりやすく解説いたします。
親知らずはなぜ虫歯になりやすいのか?
清掃性の悪さ:ブラッシングが届きにくい
親知らずは歯列の一番奥に生えているため、物理的に歯ブラシが届きにくい位置にあります。特に下の親知らずは、頬の内側の粘膜や下顎の骨にブラシが干渉してしまい、しっかり磨くことが難しくなります。また、親知らずが少しだけ顔を出している「半埋伏」の場合、歯の一部が歯肉の中に隠れているため、より清掃が困難になります。
異常な方向に生えている:斜め・横向き・埋伏歯
親知らずの生え方には個人差がありますが、横向き、斜め、あるいは完全に埋まった状態で生えるケースも多くあります。これにより、手前の歯(第二大臼歯)との間に汚れがたまりやすく、そこから虫歯や歯周病を引き起こしやすくなります。実際、親知らずが原因で手前の健康な歯に虫歯ができたり、歯周ポケットが深くなってしまったりすることもあります。
自覚症状が出にくい
親知らずの虫歯は進行しても痛みなどの症状が出にくく、気づいたときにはかなり進行しているケースが少なくありません。特に神経まで虫歯が到達している場合は、「しみる」や「ズキズキ痛む」といった症状が現れる頃には神経の壊死や感染を伴っていることが多く、抜歯が選択されやすくなります。
智歯周囲炎のリスク
親知らずの周囲に炎症が起こる「智歯周囲炎」も、よく見られる症状です。歯茎が腫れたり、膿が出たり、口臭が強くなったりといった症状を伴い、放置すると腫れが繰り返される慢性炎症へと移行します。これは親知らずだけでなく、周囲の歯や全身への影響もあるため、注意が必要です。
治療か抜歯か? 判断の基準と考え方
親知らずの虫歯に対して「治療するか・抜歯するか」を判断する際は、歯科医師が複数の要素を総合的に評価します。以下に、代表的な判断基準を紹介します。
親知らずを残せるケース
・親知らずが真っ直ぐに生えており、歯ブラシが届きやすい
・虫歯が浅く、レジン充填などの通常治療が可能
・歯の根の形状が単純で、将来移植に使える可能性がある
・手前の歯に悪影響を及ぼしていない
・患者さん自身が十分なセルフケアを継続できる意思と能力がある
また、ブリッジや入れ歯の支台歯として将来的に活用できることもあるため、単に「親知らずだから抜く」と決めるのではなく、残すメリットも評価することが重要です。
抜歯が望ましいケース
・斜めや横向きに生えているため清掃不良となり、再発リスクが高い
・虫歯が深く、神経まで到達しているが治療器具が届かず、根管治療が困難
・手前の歯(第二大臼歯)に虫歯・歯周病の悪影響を与えている
・智歯周囲炎を繰り返している
・CT画像で神経や上顎洞との位置関係にリスクがあるが、外科的対応が可能であれば早期に抜歯することで安全性が高い
・移植や支台歯としての機能が見込めない複雑な根の形態をしている
親知らずの抜歯に伴うリスクと注意点
術後の痛みや腫れ
下顎の親知らずの抜歯は、歯茎を切開したり骨を削ったりする処置が必要になることがあります。そのため、術後は一時的な痛みや腫れが生じることが一般的です。ほとんどの場合、痛み止めや抗生物質の服用でコントロール可能です。
ドライソケット
通常、抜歯後の穴には血液がたまり、かさぶたのように傷口を保護します。しかし、これが取れてしまうと骨が露出し、強い痛みを伴う「ドライソケット」になることがあります。うがいや喫煙は避け、指示に従った術後管理が大切です。
神経麻痺のリスク
下顎の親知らずの根が下歯槽神経に接している場合、抜歯によって神経を損傷する可能性があります。これにより、下唇や顎にしびれや麻痺が生じることがあります。CT検査による事前評価が必須です。
上顎洞への影響
上顎の親知らずは、鼻の横にある空洞「上顎洞」に近接していることがあります。抜歯後に上顎洞と交通してしまうと副鼻腔炎を引き起こすこともあるため、慎重な判断と処置が必要です。
全身状態との関係
高血圧、糖尿病、骨粗しょう症、抗血栓薬の服用など、全身疾患をお持ちの方は、主治医との連携が必要になります。現在ではほとんどのケースで安全に抜歯可能ですが、慎重な対応が求められます。特に骨粗しょう症治療薬を服用している場合には、服用期間や種類によって対処が異なるため、担当医師との連携の上で判断することが推奨されます。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 親知らずは全部抜くべきですか?
すべての親知らずを抜く必要はありません。問題がなく、清掃ができている状態であれば、残しておく価値があります。ただし、他の歯に悪影響を与えている、もしくは今後そのリスクが高い場合は抜歯が望ましいと判断されることが多いです。
Q2. 虫歯があっても親知らずを治療して残せますか?
虫歯が浅く、治療器具が届く位置であれば保存可能なこともあります。しかし、治療が困難で再発リスクが高い場合は抜歯が適切です。レントゲンやCT検査をもとに、治療の可否を慎重に判断する必要があります。
Q3. 抜歯の痛みや腫れが心配です
処置後の痛みや腫れは多くの場合、数日〜1週間ほどで自然に治まります。痛み止めや抗生物質で症状はコントロール可能です。術後の管理をしっかり行えば、多くの場合問題はありません。心配な方は、事前に歯科医師に抜歯後の流れや注意点をしっかり確認しておきましょう。
まとめ:親知らずの虫歯は放置せず、早めに相談を
親知らずの虫歯は、進行しても症状が出にくいため、気づいたときには抜歯が必要な状態まで進んでいることがあります。また、親知らずは周囲の歯や歯ぐきに悪影響を与える可能性があるため、適切なタイミングでの判断が非常に重要です。
「抜く」か「残す」かの判断は、歯の状態や全身の健康状態、将来的な活用の可能性など、様々な要素を考慮して行う必要があります。ご自身で判断するのは難しいため、少しでも違和感がある場合や、虫歯があることを指摘された場合は、早めに歯科医院での相談・検査を受けることをおすすめします。
親知らずと上手に付き合うことが、長く健康な口腔環境を保つための第一歩です。抜歯か保存かで迷ったときは、遠慮せずに歯科医師へ相談しましょう。
監修:もりわき歯科 院長 森脇 一都
歯科医師として長年にわたり地域医療に従事。特に予防歯科や歯周病治療に力を入れている。本記事は、地域の皆さまのお口の健康を守るための一助となることを願って執筆・監修しました。