親知らずは抜くべき?抜かなくていい?
- 2025年12月14日
- その他

目次
親知らずとは?なぜ判断が分かれる歯なのか
親知らず(第三大臼歯)は、10代後半から20代にかけて生えてくることが多い歯です。
現代人は顎が小さくなってきているため、親知らずがまっすぐ生えるスペースが不足しやすく、トラブルを起こしやすい歯とされています。
一方で、問題なく生えて機能している親知らずも存在します。そのため「親知らずは必ず抜くべき」という考え方は正しくなく、状態に応じた個別判断が必要になります。
親知らずを抜いたほうがよいケース
親知らずが原因で、手前の歯に悪影響が及んでいる場合は、抜歯を検討する対象になります。
代表的なのは以下のようなケースです。
・親知らずと手前の歯の間に汚れがたまり、むし歯ができている
・手前の歯の歯周病が進行している
・親知らずの位置や傾きにより、噛み合わせのバランスが崩れている
特に注意が必要なのは、親知らず自体には症状がなくても、手前の歯がダメージを受けている場合です。
この場合、親知らずを残すことで、将来より大きな治療が必要になる可能性があります。
当院では、レントゲンによる親知らずの位置だけでなく、手前の歯のむし歯・歯周病も定期的にチェックしています。
事前に影響が出そうかを予測することで、痛みが出ないうちに抜歯するかどうかの判断が可能になります。
抜かなくてもよい親知らずとは
一方で、以下のような親知らずは、必ずしも抜歯が必要とは限りません。
・まっすぐ生えており、上下で噛み合っている
・歯磨きがしやすく、清掃状態が良好
・むし歯や歯周病の兆候がない
このようなケースでは、親知らずを「使える歯」として残すという選択肢も十分に考えられます。
重要なのは「親知らずがあるかどうか」ではなく、「問題を起こしているかどうか」です。
親知らずが原因で起こりやすい代表的なトラブル
親知らずが原因で起こりやすいトラブルには、以下のようなものがあります。
・手前の歯のむし歯
・智歯周囲炎(親知らず周囲の歯ぐきの炎症)
・歯周病の進行
・噛み合わせの乱れや顎への負担
特に智歯周囲炎は、腫れや痛みを繰り返しやすく、抗菌薬で一時的に治まっても再発しやすいのが特徴です。
このような場合、根本的な解決として抜歯が検討されます。
親知らず抜歯に伴う主なリスク
親知らずの抜歯は外科処置であり、一定のリスクが伴います。
・術後の痛み/腫れ/出血
・下顎では下歯槽神経・舌神経の損傷によるしびれ
・上顎では上顎洞迷入や上顎洞穿孔
特に上顎の親知らずは、上顎洞(副鼻腔)と近接していることがあり、抜歯後に穴が空いてお口の中と上顎洞が通じてしまうリスクがあります。
これらのリスクを理解したうえで、抜歯の必要性と天秤にかけて判断することが重要です。

「抜くメリット」と「抜かないメリット」をどう考えるか
親知らずの判断では、
「抜くことで防げる将来リスク」と「抜歯そのもののリスク」を比較します。
若年者では回復が早い一方、症状がない歯を抜くリスクもあります。
逆に、高齢になるほど抜歯リスクは上がりますが、将来のトラブルも増えやすくなります。
年齢・症状・位置関係を総合的に評価することが不可欠です。
レントゲン・CT検査で何がわかり、何を判断するのか
親知らずの判断には、画像検査が欠かせません。
・レントゲン:全体的な位置関係、傾き
・CT:神経や上顎洞との三次元的な距離
特に神経との距離や上顎洞との関係は、CTによって初めて正確に評価できます。
この情報をもとに、抜歯の可否や紹介の必要性を判断します。
すぐに抜かなくてもよい場合の経過観察という選択肢
症状がなく、リスクも低い場合には、定期的な経過観察という選択肢もあります。
・定期検診で状態を確認
・清掃状態の維持
・変化があれば早期対応
「今は抜かない」という判断も、立派な治療方針の一つです。
親知らずは「抜くかどうか」だけでなく「どこで抜くか」も重要
親知らずの治療では、どこで抜歯を行うかも重要な視点です。
症例によっては、設備(CTなど)や経験が求められる場合があります。
この点については、別コラムで詳しく解説します。
難症例では専門医・口腔外科へ紹介されることの意味
歯科先進国では、難症例を専門医へ紹介することはごく一般的です。
これは「できないから紹介する」のではなく、患者さんにとって安全性と予後を高めるためです。
実際には、歯の神経の治療の専門医、被せ物の専門医、矯正の専門医など、分野によって棲み分けをし、ベーシックな部分は一般歯科医が担当する体制がアメリカ、スウェーデン等の歯科先進国では整えられています。
親知らず治療で後悔しないために知っておきたい視点
親知らず治療で大切なのは、
医院側の都合ではなく、患者さんにとって最善かどうかという視点です。
骨や歯を削るような難しい抜歯は、口腔外科医の方が圧倒的に手技の熟練度が高いのが実情です。
一般歯科で受ける場合は、その先生が口腔外科として専門性のあるドクターかどうかも判断基準になります。
患者さんを囲い込むためであったり、患者さんへの見栄を張るために口腔外科へ紹介しないような医院は避けた方が良いでしょう。
十分な説明を受け、納得したうえで判断することが、後悔を防ぎます。
まとめ:親知らずは「一律に抜く歯」ではなく「総合的に判断する歯」
親知らずは、
「あるから抜く」「痛いからすぐ抜く」歯ではありません。
手前の歯への影響、将来リスク、抜歯リスクを総合的に評価することが重要です。
